音楽が嫌いになる?
私たちが「音楽が嫌いになる」ということは、まずあり得ないことのように思えますが、「嫌い」じゃなくて「イヤになる」ことはあるかもしれません。仕事ですし、そこには生存競争もあるからです。
だから!というのではないのですが、普段から自分の生活を、溢れるような音楽に浸かっていたい等、これは若い頃に限りますね。今はなるべく音のない状態にしたい!とか・・・例えばタクシーに乗ったらラジオを消してもらったり、アマチュアの人が喜々として音楽話をして来られたりすると、もううんざりみたいな!そんなことが多いですよ。練習にしても「これをやれば絶対に良い演奏が出来る」ということがわかっているほど、新曲の譜読みが遅くなる。その長いプロセスを重く感じるんでしょうね。
いつまでも音楽が大好きで、経験も積んで色々わかるほど楽しいというのは、嘘かもしれません。もちろん音楽家は「こんな楽しい職業はない」「音楽こそ愛だ」と表では言いますが、言う人ほど怪しい(笑)。それは理解が深まれば、表面的にはエネルギーは現れず、むしろ見えない地下に大きな核を作るでしょう。それこそが「音楽が好き」「音楽への愛」いうものなんでしょうけど、それは共有して楽しむようなものではなく、自分自身への問いかけに変質します。そうなってくると、本当にやるべきことも見えてきて、音楽に関わる意義もハッキリして、漠然とした夢のような気分ではなくなってしまいます。

自然に頭の中で聴くべき音楽と聴いてはいけないものを振り分けてしまうし、心から何でも楽しめるというわけにはいかなくなる。でもこれはすばらしいこと、これこそが円熟ということです。この円熟が窮屈にならないように、大人になる前の若い時期には、より多くの音楽に接して楽しみ遊ぶことが必要だし、選り好みはせずにトライすることをおすすめしたいですね。