音大生にエール! 連載15 挫折|音大生就活ナビ

音大生にエール!

【連載15】 挫折

1973年に東京芸術大学大学院に入学し「減点されない歌」を到達点と考えて歌っていました。ところが、思わぬ挫折の日がやってきます。

上野公園 1975年6月の民音コンクール(東京国際コンクール)第2位受賞の日です!その週の大学からの帰り道、上野公園の中で審査委員長だったH教授に会いました。生意気な私は、H教授の門下生が1位だったことを知りながら「私は、なぜ2位だったのですか?」と聞いたのです。先生は「君の歌には欠点はなかった」と、しかし「君の歌は、私の心に届くものが彼女より少なかった」と、、、。なんと、、減点されない歌は大学の中では点数を貰えましたが、外では通用しないことを知ったのです。今の歌では、一流の演奏家にはなれないのだと悟ったのです。

上野公園でH先生が仰ったことは、私の歌を大きく変えたと思います。
その日まで、自分のためにしか歌を歌って来なかったのです。お客様に喜んで頂くために歌おう!感情のままに歌い、破綻があってもいい!と思い始めたのです。

私は不器用です。しかし、不器用なことは、自分に授かったありがたい特性だと思っています。器用な人は、なんでも直ぐ出来てしまう!だから練習しない!それ以上は良くならない!!不器用だけど「伸びたいと思っている人間は、早い段階に「マズイ」ことに気づき、時間を掛けて練習し、器用な人に追いつき、追い越す!!不器用な人間の「獲得した器用さ」こそ、価値を持つと思っています。

『こうもり』フロッシュ 26才でシューベルト作曲「冬の旅」全24曲の独唱会でデビューし、もう44年舞台に立っていますが、一度も楽譜を見て歌ったことはありませんし、オペラの公演でも、立稽古初日に楽譜を持って立ったことはありません。本番の1カ月前を、自分の暗譜の期限に設定しています。能力は低いので一日に8~10時間を使って、ただただ繰り返します。とても辛いです。でも、稽古初日には自信ありげな顔で芝居に参加しています。まだ舞台に立ち続ける覚悟です。【次号】は、「なにか」について書き始めましょう。

【14】の写真は、『フィガロの結婚』の医者・バルトロです。これまでに、伯爵、フィガロ、バルトロ、アントニオの4役を演じました。

池田 直樹(いけだ なおき)バス・バリトン profile

  • 東京芸術大学首席卒業、同大学院修了。
  • 中山悌一、小島琢磨、ハンス・ホッターの諸氏に師事。
  • 1980~81年、文化庁芸術家在外研修員としてミュンヘンに留学。
  • 著書:「声の力」河合隼雄、阪田寛夫、谷川俊太郎氏との共著(岩波書店)

バス・バリトン 池田直樹 二期会オペラ公演では『フィガロの結婚』『コジ・ファン・トゥッテ』『ドン・ジョヴァンニ』『魔笛』『ローエングリン』『タンホイザー』『ジークフリート』『ニュルンベルクのマイスタージンガー』等、数多くの作品に出演。新国立劇場公演でも『アラベッラ』『マノン・レスコー』『トスカ』『夕鶴』『沈黙』『マノン』『ドン・キショット』『ドン・ジョヴァンニ』『椿姫』『セヴィリアの理髪師』に出演し、存在を顕かにしている。独唱会も1976年のシューベルトの歌曲集「冬の旅」を最初に回を重ねている。また、オーケストラとは、宗教的作品やベートーヴェンの「第九交響曲」で多数共演し評価は高い。演奏会企画では、2002年にサントリー・小ホールでの「二期会創立50周年記念・30日連続演奏会」を成功させたほか、「100曲リクエスト・コンサート」「オペラ事件簿」「お代は見ての御帰り!」などで話題を集めている。2020年11月には二期会オペラ公演『メリー・ウィドー』にツェータ男爵役で出演し、朝日新聞で絶賛されている。二期会会員。  

池田直樹さんに聞いちゃおう!

声楽演奏家・オペラ歌手の池田直樹さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>>

掲載は2021年2月20日ごろを予定しております! ぜひお楽しみに!

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