音大生にエール! 連載19 まず振動ありき|音大生就活ナビ

音大生にエール!

写真:ルクセンブルク・ フィルハーモニーとEU関連施設

【連載19】まず振動ありき

演奏とは、振動により得られた響きを成形する芸術であります。

日本人がヨーロッパに留学すると、まずヨーロッパ人による演奏のスケールの大きさに驚かされます。言葉を使って積極的に表現する人たちですから、大きく聞こえるのはその表現だということもあるのですが、いや、やはりそれにしても日本人と比べると確実に音量が大きいです。

ベルリン大聖堂

写真:ベルリン大聖堂

私の30年間のヨーロッパ演奏活動、最初の5年くらいは、オーケストラの中で音量がヨーロッパ人に全く追いついていなかったことが、大変なコンプレックスでした。古参同僚にも「Die Sau rauslassen !(もっとお前のすべてをさらけ出せ!)」と言われましたが、力を込めたからといって音量が上がるものではありません。

ヨーロッパ人の一回り大きい体格は、実に羨ましいですねえ。単に音量が大きいだけではなくて、幅があって音像の母音の部分が豊かなイメージ、オシロスコープで中低音が充実しているイメージでしょうか。結果、より立体的に聞こえます。ヨーロッパ人よりもさらに効率よく振動させる奏法を身につけなくてはならないのは日本人の宿命と覚悟を決め、あのスケールが大きい響きをゲットしましょう。

音量が豊かだと、コンクールやオーディションに受かるためにかなり有利になります。よく振動して鳴っている音は、奏者の身体からいさぎよく離れていき、演奏していても聴いていてもとても心地良いものです。どの楽器でも声楽でも、上手に振動させるコツを習得することは、演奏技術の第一歩かつ最も核心部分であると言えるでしょう。強弱や音程、音の色合いや成形など、様々な課題を軽々とこなせるようになります。

ベルリン・オ リンピア・シュタディオーン

写真:ベルリン・オ リンピア・シュタディオーン

楽器、姿勢、響きのイメージなど、振動を最大限に引き出すコツは様々なところに存在するでしょう。唯一これさえやっておけば上手くいく、ということではないと思います。

どこかで誰かから教わって上手くいったら、その成功体験を必ず文章や絵にして記録しておきましょう。その場で雰囲気だけ真似できたのに、環境が変わるとわからなくなってしまうことが多く、いったん身体が忘れてしまうと復元が難しいですね。あとで読み返すごとに、重要な助けにります。

そもそも、身体の中で起きていることは目に見えませんから、ただでさえ曖昧模糊となりがち。それでも、鏡で確認すると、体の外側にも変化が現れていることがあります。そしたら、逃さずメモ!

渡辺 克也(わたなべ かつや) オーボエ奏者 profile

オーボエ奏者 渡辺克也 埼玉県立浦和高校を経て東京藝術大学卒業。在学中に新日本フィルに入団。90年日本管打楽器コンクール・オーボエ部門で優勝し大賞も受賞。91年よりドイツに渡り、ヴッパータール響、カールスルーエ州立歌劇場管、ベルリン・ドイツ・オペラ歌劇場管の首席奏者を歴任し、現在はソリスツ・ヨーロピアンズ・ルクセンブルクの首席奏者を務める。ソリストとしてもこれまでハンガリー放送響、ザグレブ・フィル、スロヴァキア・フィル、ヴッパータール響、都響、神奈川フィル、群響、名古屋フィル、日本フィル他と共演。2010年秋より2013年3月まで、産経新聞にて「渡辺克也のベルリン音楽旅行」を連載。現在「ウェブ平凡」にて「オーボエ吹きの休日 ベルリン音楽だより」好評連載中。2011年、第28回日本管打楽器コンクール・オーボエ部門の審査委員長を務める。洗足学園音楽大学客員教授を務めている。ベルリン在住。
http://www.katsuyawatanabe.com 

渡辺克也さんに聞いちゃおう!

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次回の掲載は2021年4月20日ごろを予定しております!
ぜひお楽しみに!

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