まず振動ありき
演奏とは、振動により得られた響きを成形する芸術であります。
日本人がヨーロッパに留学すると、まずヨーロッパ人による演奏のスケールの大きさに驚かされます。言葉を使って積極的に表現する人たちですから、大きく聞こえるのはその表現だということもあるのですが、いや、やはりそれにしても日本人と比べると確実に音量が大きいです。

写真:ベルリン大聖堂
私の30年間のヨーロッパ演奏活動、最初の5年くらいは、オーケストラの中で音量がヨーロッパ人に全く追いついていなかったことが、大変なコンプレックスでした。古参同僚にも「Die Sau rauslassen !(もっとお前のすべてをさらけ出せ!)」と言われましたが、力を込めたからといって音量が上がるものではありません。
ヨーロッパ人の一回り大きい体格は、実に羨ましいですねえ。単に音量が大きいだけではなくて、幅があって音像の母音の部分が豊かなイメージ、オシロスコープで中低音が充実しているイメージでしょうか。結果、より立体的に聞こえます。ヨーロッパ人よりもさらに効率よく振動させる奏法を身につけなくてはならないのは日本人の宿命と覚悟を決め、あのスケールが大きい響きをゲットしましょう。
音量が豊かだと、コンクールやオーディションに受かるためにかなり有利になります。よく振動して鳴っている音は、奏者の身体からいさぎよく離れていき、演奏していても聴いていてもとても心地良いものです。どの楽器でも声楽でも、上手に振動させるコツを習得することは、演奏技術の第一歩かつ最も核心部分であると言えるでしょう。強弱や音程、音の色合いや成形など、様々な課題を軽々とこなせるようになります。

写真:ベルリン・オ リンピア・シュタディオーン
楽器、姿勢、響きのイメージなど、振動を最大限に引き出すコツは様々なところに存在するでしょう。唯一これさえやっておけば上手くいく、ということではないと思います。
どこかで誰かから教わって上手くいったら、その成功体験を必ず文章や絵にして記録しておきましょう。その場で雰囲気だけ真似できたのに、環境が変わるとわからなくなってしまうことが多く、いったん身体が忘れてしまうと復元が難しいですね。あとで読み返すごとに、重要な助けにります。
そもそも、身体の中で起きていることは目に見えませんから、ただでさえ曖昧模糊となりがち。それでも、鏡で確認すると、体の外側にも変化が現れていることがあります。そしたら、逃さずメモ!