スポーツのすすめ
音量を上げるために一番手っ取り早い方法は、スポーツで身体を鍛えてエンジンをパワー・アップさせることでありましょう。活性化された健康体からは、パワーがこんこんと湧いてくるものです。普段、体力を温存すべき演奏直前にわざわざ水泳や山歩きなどしませんけれども、スケジュール上どうしてもそうなってしまったときに限って、仲間から「今日はいい音してるねえ。」なんて言われたりします。
写真:ソリスツ・ヨーロピアンズ・ルクセンブルクの
メンバーが常宿にしているパーク・ホテルの屋内プール
ミリメーターもたがわない正確かつ速い指の動き、テンポや音量を常に計算しながらフレーズを表現、仲間と合わせるために耳で聞き分けられる最小限度の音程を微調節、など、演奏中は神経の限界領域で作業をしているわけですから、それは早々に煮詰まるでしょう。そのようなときに、筋肉を目一杯動かし、血流を隅々まで勢いよく廻らすと、身体も頭脳も初期化されます。
そのついでに逞しい体力がつけば、本番という極度のストレスに打ち勝つ源にもなるでしょう。
演奏という作業は、指、腕、口、肺、そしてなによりも脳、いずれも上半身ばかり使います。煮詰まったが最後、上半身だけから発せられたヒョロヒョロした演奏になりかねません。
ベルリンに留学していたある美人日本人ピアニストから、こんな体験談を聞きました。
「ヨーロッパの音に近づくために、腹式呼吸、そして重心を腰の位置におろすよう、お臍と恥骨の間の下丹田の部分を意識し続けました。しばらくはその意識の下でドレミファソのみを用いて、一音一音の身体の使い方を確かめながら、深い音を鳴らせるよう研究しました。身体の使い方かが変わり、音が自然に出やすくなって、フレーズも長くなったのを実感しました」。なんと、腹式呼吸が管楽器のみならずピアノ演奏にもいい影響を与えるとは!
写真:ベルリン・トイフェルスベルクで山歩き
イマイチわかりにくい腹式呼吸を体感するには、なんといっても腹筋運動が最適でしょう。仰向けになり上半身を起こす腹筋運動でも、伸ばした脚を5センチだけ1分間上げたままにする方法でも構いません。最新スポーツ科学の粋を集めたピラティス・トレーニングでしたら、まさに理想的です。腹筋運動直後に息を吸い込むとあら不思議、意識も空気も、 自然と下丹田に集まるではありませんか。
下丹田がいつも活性化されていて、演奏中に放っておいても勝手に腹式呼吸をしてくれる身体になっていることが、肝要です。朝晩5分ずつで充分ですから、ぜひ腹筋運動を日課とされてください。