音大生にエール! 連載25 フレーズについて|音大生就活ナビ

音大生にエール!

写真:ルクセンブルク・ フィルハーモニーとEU関連施設

【連載25】フレーズについて

ベルリン・ラジオ塔

写真:ベルリン・ラジオ塔

フレーズはほとんどの場合、静かに始まり、徐々に動きだし迫力を増し、クライマックスでいちばん大切なことを語り、少しづつ降下し、また元の静けさへと戻っていきます。一番最初の音がクライマックスで始まるようなフレーズは例外的で、非常に稀であると言えましょう。

フレーズの最後尾をゆっくりにしてあげると終わりらしく格好良くなるのは、広く知られていますが、フレーズの最初もゆっくり目から始め、2小節目後半くらいから小出しに速度を上げると、演奏に風格が伴います。最初の音をいかに落ち着いて静かに始められるかで、その先の発展の伸びしろが大きくなり、ここをしくじるとかなり決定的です。

それでは、クライマックスは速ければそれで迫力が出るのかというと、そうとも一概には言えません。場合によっては、速く演奏することによりせせこましく小ぶりに聞こえてしまうので、その直前から威厳を伴って速度を落として、クライマックスではしっかり演奏する必要があります。

クライマックスは、はっきりとんがって短かったり、台地のように長かったり、思いっきり圧倒してみたり、7割方しか盛り上げず肩透かしを食らわせたり、いろいろです。

盛り上げていく過程で、クッレッシェンドの効果を上げるために、半ばでスビート・ピアノにして再度クッレッシェンドする手法もしばしば用いられますが、その結果、クッレッシェンド2回分のエネルギーを表現できるかというと、そうでもありません。むしろ、ピアノで静かになったイメージばかりが残ったり、フレーズが小分けにされたように聞こえる危険も伴いますので、慎重を期すべきです。

同じように、最後のリタルダンドを効果的に表出したいので一旦その前に速度を上げる人がいますが、リタルダンドよりもアッチェレランドの印象がまさってしまい、テンポを上げて終わっていくように落ち着かない演奏になることが多いようです。小細工は時として災いします。

テンポを変化させることにより演奏を生き生きとさせることができるからこそ、何故そこで速くするのか、何故そこでゆっくりするのか、目標意識をはっきり持ってのぞみましょう。

河口湖に映る富士山

写真:河口湖に映る富士山

シンプルに小出しで長く揺るぎないクッレッシェンド&ディミニュエンドをして盛り上げるのが天下無敵、最も高級で芸術的なフレーズ感であります。河口湖に映った裾野が長い富士山をイメージすると、ちょうど良いでありましょう。細かい起伏がいくつかあったとしても、この大きな富士山を最優先し、上手にならします。

富士山を効果的に描き出すためには、速度と音量を事前にしっかり計算して、フレーズの設計図が頭の中に出来上がっていることが肝要です。実際に演奏者の立場として表現するのは、その図形です。巻物のように始めから最後まで同じ幅のものが続いているような発想で勝負するのでは、とても歯が立ちません。

渡辺 克也(わたなべ かつや) オーボエ奏者 profile

オーボエ奏者 渡辺克也 埼玉県立浦和高校を経て東京藝術大学卒業。在学中に新日本フィルに入団。90年日本管打楽器コンクール・オーボエ部門で優勝し大賞も受賞。91年よりドイツに渡り、ヴッパータール響、カールスルーエ州立歌劇場管、ベルリン・ドイツ・オペラ歌劇場管の首席奏者を歴任し、現在はソリスツ・ヨーロピアンズ・ルクセンブルクの首席奏者を務める。ソリストとしてもこれまでハンガリー放送響、ザグレブ・フィル、スロヴァキア・フィル、ヴッパータール響、都響、神奈川フィル、群響、名古屋フィル、日本フィル他と共演。2010年秋より2013年3月まで、産経新聞にて「渡辺克也のベルリン音楽旅行」を連載。現在「ウェブ平凡」にて「オーボエ吹きの休日 ベルリン音楽だより」好評連載中。2011年、第28回日本管打楽器コンクール・オーボエ部門の審査委員長を務める。洗足学園音楽大学客員教授を務めている。ベルリン在住。
http://www.katsuyawatanabe.com 

渡辺克也さんに聞いちゃおう!

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次回の掲載は2021年7月20日ごろを予定しております!
ぜひお楽しみに!

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