16分音符
演奏家は、16分音符の指の特訓に練習時間の半分くらいを費やします。作品の聴かせどころは速い部分であることが多く、鮮やかに完璧に演奏されてこそ強烈な華が添えられます。
指がネックになり演奏表現に微塵でも悪影響を及ぼすことは、絶対に避けなくてはなりません。速く均等に余裕を持って演奏できるように訓練してあって初めて、芸術のスタート地点に立てると言えましょう。それはあくまでも基本であり、まだその先があるのです。
練習の実際としましては、楽譜が黒っぽい部分、つまり16分音符や32分音符それに64分音符だけを取り出し、出来ない部分のみメトロノームを使い出来るまで何百回でも何千回でも練習します。例えば、4分音符の速度92で5回連続してできたら上がり、というように、厳しい条件をつけるのが有効でしょう。4回連続して出来ても5回目最後の1音を失敗すれば、涼しい顔でもう一度1回目から始めます。
出来なければ、速度を落とし、無理がないテンポから始めなければなりません。
符点練習と逆符点練習
この際にクオリティーを上げるためとっても役立つのが、符点練習と逆符点練習でしょう。次の音にスムーズに進んでくれない指を強制的に速く動かし、コントロールできずに次の音に転び込んでしまう指を強制的に待たせる練習。隣り合った2音だけ集中して訓練できる効果により、16分音符の粒が均等に揃ってくれます。
子供のピアノのお稽古でも必ず成果を上げてくれるこの魔法の練習法、1音1音を自分のコントロール下に置くくために、極めて重要です。
8分音符と16分音符の3連符でリズム練習する方法もありますが、符点練習と逆符点練習に比べると著しく効果が薄いでありましょう。
8分音符と16分音符の3連符でリズム練習
さらにもう一段上のレヴェル、指の都合できれいにレガートが繫がらない部分も克服するところまでいくと、完璧です。相当に根気を要する作業です。
このようにして16分音符を根気強く繰り返し練習すると、本番の極限状態においても事故る可能性がかなり低くなります。仮に1音事故ってしまっても、次の音で指が勝手に回復してくれるので大事故に至りません。練習量に見合った成果としてかなり正直に報われる、と言えるでしょう。
演奏家はこの状態を、「指が憶えてくれる」と表現します。実際に憶えてくれるのは、指ではなくて脳や神経だそうですね。たとえ真夜中の3時に起こされていきなりその部分を演奏しても、指が勝手に動いてくれて正確に演奏できる状態・・・、この例えを真に受け実践して怒られる武勇伝の持ち主が、たまにいます。