写真:ルクセンブルク・ フィルハーモニーとEU関連施設
【連載30】フルトヴェングラー演奏の分析のすすめ
写真:イエス・キリスト教会にてレコーディング
もう少し具体的に観察できる例としまして、シューベルト作曲交響曲第9番ハ長調を聴いてみましょう。第2楽章156小節からのホルンのプレーンなクレッシェンド、私はここだけ何千回繰り返し聴いたか、見当もつきません。演奏しているのはフルトヴェングラー・ホルンとして名高いマルティン・ツィラー(Martin Ziller)、ブラームスのソロを吹かせたら誰もが涙を流した、と言い伝えられています。ヴィブラートをかけて大変美しく演奏。この部分も、直前にフルトヴェングラーが上手にテンポを落としていった黄昏の空を経て、夜の森で哲学者と対話をする大変な聴きどころです。
Gの途中から2小節半、もう1本ホルンがそおっと加わってきて増強しているようであります。それを考慮しても、これほどまでにピアニッシシモからフォルテまで音量の差が巨大な楽器単体のクレッシェンド演奏は、そうなかなかお目にかかれないのではないでしょうか。
始めの音色をクレッシェンドしていくと、その中からいつの間にか違う音色のつぼみが新たに現れ、それもクレッシェンドしていくと、またその中からいつの間にか次の音色のつぼみが現れ、ということが連続的に繰り返されているように聞こえます。音量に続き少し遅れて音色も上手に変化させた、非常に秀逸なクレッシェンドでありましょう。私がオーボエを演奏する際にも、この技術をいただき使っています。
写真:バッハ最初の赴任地である
ミュールハウゼンのディヴィ・ブラジー・教会
フルトヴェングラーの演奏には、今日でも演奏に役立つ特級の技術が満ち溢れています。よろしければ、ミニチュア・スコアを買い、それを見ながらフルトヴェングラー演奏を聴いてみてください。あたかも作曲者がフルトヴェングラーの演奏を聴いて写譜したような錯覚を覚えるほど、スコアに書かれていることに驚くほど忠実であります。その表現がドラマチック過ぎるので、スコアをどれだけ曲解しているのだろう、と誤解されるのは、不幸な間違いと言わざるを得ません。フルトヴェングラー演奏をスコアを見ながら科学的に分析して得られる技術の価値に比べれば、スコア代程度の経費など知れたものですよ。
渡辺 克也(わたなべ かつや) オーボエ奏者 profile
埼玉県立浦和高校を経て東京藝術大学卒業。在学中に新日本フィルに入団。90年日本管打楽器コンクール・オーボエ部門で優勝し大賞も受賞。91年よりドイツに渡り、ヴッパータール響、カールスルーエ州立歌劇場管、ベルリン・ドイツ・オペラ歌劇場管の首席奏者を歴任し、現在はソリスツ・ヨーロピアンズ・ルクセンブルクの首席奏者を務める。ソリストとしてもこれまでハンガリー放送響、ザグレブ・フィル、スロヴァキア・フィル、ヴッパータール響、都響、神奈川フィル、群響、名古屋フィル、日本フィル他と共演。2010年秋より2013年3月まで、産経新聞にて「渡辺克也のベルリン音楽旅行」を連載。現在「ウェブ平凡」にて「オーボエ吹きの休日 ベルリン音楽だより」好評連載中。2011年、第28回日本管打楽器コンクール・オーボエ部門の審査委員長を務める。洗足学園音楽大学客員教授を務めている。ベルリン在住。
http://www.katsuyawatanabe.com
渡辺克也さんに聞いちゃおう!
今回で、オーボエ奏者の渡辺克也さんからのエールは終了です。渡辺克也さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>>
次回からは、作曲家の二宮玲子さんからのエールをお届けいたします!
掲載は2021年10月5日ごろを予定しております! ぜひお楽しみに!