「芸術至上主義作曲家」
~絶滅危惧種~の音大回想録
二宮玲子です。ライフワークはオペラ作曲という、今の世の中では珍しい「芸術至上主義作曲家」。まさに変人の部類、『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』(新潮文庫)で数年前に話題になった東京藝大卒です。新自由主義経済の時代を生きる現代の音大生には、私の話はあまり参考にならないかもしれません。何しろこれまでの人生、自慢ではありませんが、音楽以外の仕事をしたことがありません。(私の悲惨な就活に関しては、後の連載で述べる予定です)
私の母は専業主婦で、私が幼いころから「これからの時代の女性は、男性と対等に経済的に自立しなくてはならない」と言い続け、「女の子だから音楽をやらせたい」と、ピアノを習わせました。この「経済的自立」と「音楽家」という二つの難題を背負い、人生の大半を送って来ました。そして大学で出会った恩師松村禎三先生の影響下、もはや絶滅危惧種となりつつある「芸術至上主義作曲家」の道を歩み続けることにしたのです。
今の音大生の皆さんには「音大生就活ナビ」のような強力な就職支援情報サイトがあり、生きやすい世の中になったと思います。このサイトによると、音大生の卒業後にたどるコースは、①企業に就職する②演奏家になる③音楽を教える④音楽に携わる、と区分されています。
「芸術至上主義作曲家」の私は、主として③大学非常勤講師とアマオケの指導、不定期に②ピアニスト及び④委嘱作品の作曲、映画音楽の作曲、を選択してきました。そして新型コロナウィルス禍の不況でも、何とか音楽家で生き残っていられるのは、ひとえに『折れにくい柔らかい心』を持ち続けていたからだと思います。柔らかい心とは、広い視野をもち、予断や思い込みがなく、我執を捨てて、変化を恐れず新しい状況に対応する柔軟性と包括力のことであり、芸術上の真実という大目標を達成するために小目標を棄てる勇気でもあります。
皆さんが私と同じように「芸術至上主義」を取ろうと取るまいと、新型コロナ以降の困難な時代を柔らかい心を持って、しなやかに生き抜いてほしいと願ってやみません。
さて、音大のみならず、大学時代というのはモラトリアム(社会に出て一人前の人間になる事を猶予されている)期間であり、自己の価値観やアイデンティティーを確立するための準備期間でもあります。この重要な期間に、是非とも一流の芸術作品に触れてほしいと思います。学割をフル活用して、絵画展、オペラ鑑賞、オーケストラの定期演奏会、能、歌舞伎等を積極的に鑑賞されることをお勧めします。
新型コロナ禍の状況下、外出が憚れるようでしたら、レンタルやネットでの名画鑑賞や、読書はいかがでしょうか。(出来れば名画座に入り浸るのをお勧めしたいところですが)
日本が世界に誇る源氏物語は世界最古の長編小説であり、これから世界に羽ばたく日本の若者には自国の文学として是非読んでもらいたいものです。『イギリスはおいしい』の著者でもある林望先生の現代語訳による謹訳 源氏物語(祥文社)全十巻、美しい日本語でスラスラ読めます。拙作、『MABOROSI~オペラ源氏物語』は林望先生の作劇により、光源氏晩年の「御法の帖」、「幻の帖」を題材としています(生き残りのために自己宣伝させて頂きました。笑)。この際、謹訳 源氏物語 全十巻、謹訳 平家物語と共に読破されてみてはいかがでしょう。
MABOROSI15分バージョン
MABOROSI30分バージョン