音大生にエール! 連載48 フランスの音大生|音大生就活ナビ

音大生にエール!

【連載48】フランスの音大生

初めての試験で同じレベルを受けたクララちゃんと。 フランスといえばお洒落の代名詞、色とりどりのマカロンのようなイメージがありますが、近年はテロやデモで荒れるパリの話も聞かれるようになってきました。でも、そういう面は知りたくないと目を逸らし、頑なにフランスの素敵な面だけに注目する人も少なくないでしょう。

そんなフランスのマカロンのイメージに近いのが実は日本の音大生かも知れません。お金持ちのお嬢様やお坊ちゃま。高価なヴァイオリンやグランドピアノ、フルートに金ピカのトランペット、そして専用の練習室。綺麗な服でレッスンに通い、発表会では美しいドレスを纏う。そんなキラキラしたイメージでしょう。
でも現実は、グランドピアノの下で寝なくちゃいけない、トロンボーンは手を伸ばすと壁にぶつかるから部屋で斜めに吹かないといけない、ヴァイオリンの弓が天井に当たるから座って練習するなど、狭いアパートで頭を掻きむしりながら練習している人もいます。
こういうイメージは時代と共に、10年単位くらいで変わると思いますが、私が桐朋学園の学生だった1990年前後は確かに裕福な人も多く、金銭だけでなく、才能にも輝く人がたくさんいて華やかな雰囲気でした。

フランスにやってきて、日本の延長で音楽院へ行くと大分様子が違いました。まず、素敵な格好をしている人は全然いません。いつも同じ服にヨレヨレの鞄、ペタンコ靴です。多少の雨なら傘をささないので濡れネズミのようになってやってくる人もいます。日本ではレッスンにジーンズで行くなんて考えられませんでしたが、ラフな格好で、とりあえず服には何の気合いも入っていません。練習の合間にトイレの水道から水をグビグビ飲んだりします。レッスン代を封筒に入れず、お財布から直接出したり、ポケットから小銭を出して払う人もいて驚きました。ピン札でないと失礼だという考えもありません。

この溝にヒールが挟まります。

この溝にヒールが挟まります。

この溝にヒールが挟まります。

そもそも清潔とは言えないパリのメトロに乗るのですから、綺麗な格好をする必要もないし、そんな恰好ではむしろスリに狙われます。パリに多い石畳みはヒールが挟まって歩きにくい。いざという時に逃げられるペタンコ靴を履くのは、なにも音大生に限った話ではありません。それでも彼らが素敵に見えるとすれば、皆自分の髪の色や、体型にあった服を選び、個性が感じられるからです。それにフランス人は姿勢がよく、歩き方が颯爽としています。

さて、そんなフランスの音大生、大学にあたるコンセルヴァトワール (Conservatoire de musique) に入るまで、どんな経緯を経るのでしょうか。フランスの小学校には音楽の授業がほぼありません。ですから、楽器をやりたければ、地元の音楽教室へ行きます。たて笛のクラスもちゃんとあります。住んでいる町にコンセルヴァトワールがあれば、そこでソルフェージュやコーラスなどを総合的に、また安い学費で勉強できます。
才能が開花すれば、入学試験を経て規模の大きなコンセルヴァトワールに移り、更にプロを目指すならばそのためのコースに入ります。リヨンとパリの国立高等音楽院がコンセルヴァトワールの最高位です。飛び級や落第もよくありますし、入学時期は人それぞれなので、同学年でも年齢は様々です。フランスのコンセルヴァトワールは税金で賄われるため、ほとんど学費のかからないのが魅力です。楽器を買ったり、長いバカンス中にプライベートレッスンに通ったり、講習会への参加にお金を回せます。

国立音楽院のコース以外にも、私立の音楽教室やパリのエコール ノルマルもありますが、学費は高くなります。
ナポレオン皇帝の妻、ジョセフィーヌゆかりの地、Rueil-Malmaisonの音楽院

ナポレオン皇帝の妻、ジョセフィーヌゆかりの地、Rueil-Malmaisonの音楽院。
ミニフランス庭園があります。

ナポレオン皇帝の妻、ジョセフィーヌゆかりの地、Rueil-Malmaisonの音楽院。
ミニフランス庭園があります。

フランスにはたくさんの留学生が来ますが、外国に留学するフランス人もいます。近くて音楽院も充実して、就職のチャンスも多いドイツが一番多い行き先です。アメリカやイギリスへは裕福でないと行けません。お金持ちだけが音楽を始めるわけではないので、留学までする人はかなり少数です。自分から出ていかなくても、世界中から留学生が来ますから、そんな環境で自然と揉まれているのです。

木野 真美(きの まみ) ピアニスト profile

ピアニスト 木野 真美 桐朋学園大学附属子供のための音楽教室でピアノをはじめ、桐朋学園大学卒業後、1994年よりパリ在住。中島和彦、アンヌ•ケフェレックなどに師事。高校在学中より兄であるヴァイオリニストの木野雅之の伴奏を務め、その後数々のアーティストとヨーロッパや日本で共演している。モーツァルト国際ピアノコンクール第3位、日本室内楽コンクール優勝。

子守歌集「Lullaby oh lullaby!」ベルエポックのソロ作品「雨にぬれた庭」「伊福部昭作品集」「貴志康一作品集」「アルルのカルメン」などCD,DVD録音も行なっている。

伴奏、室内楽、ソロ活動の他、現在はパリ郊外の音楽院で教師をし、レクチャーコンサートにも多数出演している。2009年にはカネボウ化粧品のサイトでコラム「パリからの手紙」を5年間連載した。
趣味はチェロとチェンバロ。現在はパリ郊外のサンジェルマン•アンレー市在住。

木野真美さんに聞いちゃおう!

ピアニストの木野真美さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>>

次回の掲載は2022年7月5日ごろを予定しております!
ぜひお楽しみに!

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