音大生にエール! 連載49 演奏会へ出かける|音大生就活ナビ

音大生にエール!

【連載49】演奏会へ出かける

フランスのコンサートシーズンは9月に始まり6月で終わります。学校と同じカレンダーです。夏には別枠でフェスティバルが開催されます。毎年4月頃から翌シーズンのプログラムが発表され、チケットのまとめ買い、先行予約が始まります。購入枚数や演目によって割引き率が異なりますが、最大3割引きになるので、私のようにたくさんコンサートへ出かける人には無視できないサービスです。

シャンゼリゼ劇場の天井にほど近い「見えない席」です。

  シャンゼリゼ劇場の天井にほど近い「見えない席」です。
  Maurice Denisの絵画とアールデコの照明に手が届きそう。

シャンゼリゼ劇場の天井にほど近い「見えない席」です。Maurice Denisの絵画とアールデコの照明に手が届きそう。

私のお気に入りはシャンゼリゼ劇場とフィルハーモニーホール。会員登録をすると、先行予約ができて、シーズン中の気になるコンサートを全て買っておくことができます。他のホールの分は単発で購入します。その場合、会員予約が済んで残っている席なので、良い席を取れないこともあります。日本の席種はS、A、B、学生席くらいでしょうが、フランスはもっと細かく6段階に分かれ、シャンゼリゼ劇場などは「全く見えない席5€」「ほとんど見えない席10€」「少ししか見えない席」などというカテゴリーもあります。そんな席まで完売してしまうのは余程のアーティストだけですが、最近の例だとグレゴリー•ソコロフのピアノリサイタルは埋まっていました。天井に手が届きそうなところから、握り拳くらいの小ささに見えるアーティストが奏でる音をひとつも漏らすまいと聴く、あの集中した空気は演奏会ならではです。以前アルフレッド•ブレンデルの引退コンサートをやはり最上階で聴いた際、音が天井に跳ね返って、宝石のように降ってきて触れられそうな気がしました。

私が来シーズンで特に楽しみにしているのは、ヨーヨー•マのバッハ組曲全曲、内田光子とサイモン•ラトルの共演や、2020年のクリスマスに亡くなったイヴリー•ギトリスの追悼演奏会「IVRY FOR EVER」です。これはギトリスの親友であったマルタ•アルゲリッチが仲間とやるコンサートで、まだ1年以上先ですが、かぶりつきを押さえました。アーティストによって値段も違うので、これは完売が見込まれているなとか、この人は随分ランクが上がったななどと読み取れます。
私の住むサンジェルマンアンレー市のお城の庭で、アルゲリッチも出演した野外コンサートがありました。

私の住むサンジェルマンアンレー市のお城の庭で、アルゲリッチも出演した野外コンサートがありました。
強い日差しと風の中での演奏でした。

私の住むサンジェルマンアンレー市のお城の庭で、アルゲリッチも出演した野外コンサートがありました。
強い日差しと風の中での演奏でした。

フランスに来ないアーティストは意外にもたくさんいます。イギリスやドイツのプログラムには知らない名前が多くて、こんなに近いのに、ヨーロッパ内でも交流が少ないと感じます。ですから旅先ではコンサート会場をよくチェックします。
日本は昔から積極的に海外アーティストを呼ぶ習慣があるので、高価ではありますが、かなりバラエティに富んで聴けると思います。美術品もしかり、わざわざ飛行機に乗らなくても観られる、聴けるものは有り難いと思って財布の紐を緩めるしかありません。
6月18日、野外コンサートでベートーヴェンのトリプルコンチェルトを演奏しました。

6月18日、野外コンサートでベートーヴェンのトリプルコンチェルトを演奏しました。

6月18日、野外コンサートでベートーヴェンのトリプルコンチェルトを演奏しました。

この原稿が出る頃は7月で、夏のフェスティバルが始まっています。6月21日夏至の日はFête de la musique と呼ばれ、道端で誰でも音楽を奏でていい日です。この頃から野外コンサートも増え始め、会場で息をひそめて聴くのとは違ってリラックスし、生活音や自然の音に混ざって、たまに飲み食いしながら聴くのも楽しいものです。
演奏者はライトに虫が集まってきて困るんですよね…。私は虫が苦手なので、手に止まられたりしたら、ff でミスタッチします。でも虫のせいだなんて、遠い客席では誰も思わないでしょうね。

木野 真美(きの まみ) ピアニスト profile

ピアニスト 木野 真美 桐朋学園大学附属子供のための音楽教室でピアノをはじめ、桐朋学園大学卒業後、1994年よりパリ在住。中島和彦、アンヌ•ケフェレックなどに師事。高校在学中より兄であるヴァイオリニストの木野雅之の伴奏を務め、その後数々のアーティストとヨーロッパや日本で共演している。モーツァルト国際ピアノコンクール第3位、日本室内楽コンクール優勝。

子守歌集「Lullaby oh lullaby!」ベルエポックのソロ作品「雨にぬれた庭」「伊福部昭作品集」「貴志康一作品集」「アルルのカルメン」などCD,DVD録音も行なっている。

伴奏、室内楽、ソロ活動の他、現在はパリ郊外の音楽院で教師をし、レクチャーコンサートにも多数出演している。2009年にはカネボウ化粧品のサイトでコラム「パリからの手紙」を5年間連載した。
趣味はチェロとチェンバロ。現在はパリ郊外のサンジェルマン•アンレー市在住。

木野真美さんに聞いちゃおう!

ピアニストの木野真美さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>

次回の掲載は2022年7月20日ごろを予定しております!
ぜひお楽しみに!

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