音大生にエール! 連載58 其の四 <出会いは偶然、いつでも何度でも> 前編|音大生就活ナビ

音大生にエール!

【連載58】其の四 <出会いは偶然、いつでも何度でも> 前編

さて、皆さんが今勉強されていらっしゃる楽器、あるいは歌はいつどうやって出会われましたか?
おかあさんのお腹の中ではじめて歌を聴いた、生まれた時からその楽器をおもちゃにしていた、あるいは気付いたらレッスンに通わせられた? はたまた最初に出かけた演奏会ではっと目を引く楽器を見つけて忘れられなくなった、などなど、皆さんそれぞれのヒストリーがおありのことと拝します。

オンド・マルトノ 今回は、私とオンド・マルトノとの出会いについて、お話しさせていただこうと思います。
おそらくほとんどの初対面の方から尋ねられるし、コンサートや音楽雑誌などいろいろな機会でお話しさせていただいたり、書かせていただいたりしたストーリーですので、陳腐にお感じになられる方がいらしたら申し訳ありません。
オンド・マルトノ
それは高校時代、そこは全く普通の男子校で、音楽を専門にする科やクラスがあるわけでもないのに、なぜか音楽は随分と専門的なことを教えてくださる先生に恵まれていました。高校一年後期の課題はワーグナーのマイスタージンガー前奏曲を「アナリーゼ=分析する」という、恐らくほとんどの生徒にはちんぷんかんぷんな授業、それでも自由課題で何でもOKという時には、かなりの数の生徒が自作品を様々な楽器で自演するという意識の高さは、今も応援し続けてくれる仲間に恵まれていることにつながっています。

そんな音楽の時間、あるとき先生がオリヴィエ・メシアン作曲の「トゥランガリーラ交響曲」のLPレコードをかけてくださいました。ザ・ビートルズからすべてはスタートし、バンドという音楽形態に強く憧れていて、中学校一年から真似事のようなバンドをやり始めて、それなりに電気を使った楽器の音には慣れ親しんでいたつもりでしたが、そこで演奏されているというオンド・マルトノという楽器は名前さえ全くの未知でしたが、何より演奏家が目の前にいるかのような強烈なその表現力と、圧倒される音圧にすっかり心を奪われてしまいました。

今ならネットですぐ情報を得られるだろうし、1950年代からNHKがスタジオに常備していて、たくさんの番組のBGMに使用していたとか、とりわけ黛敏郎、武満徹、三善晃、入野義朗といった方々は作品とも呼べる重要なスコアを残してくださったりとか、それは留学したあとになって知ることでした。

先生も詳しいことは「自分にはわからない」ということでしたが、バンド活動でそれなりに電気の楽器に馴染んでいたという自負があり、またここが重要なのですが、幼い頃よりのフランスへの憧憬という、ロック・バンドとはまた別の自分という二つがピタっと交差し結ばれることになったのです。
フランス音楽はもちろんですが、文学や美術作品、映画、またとりわけシャンソンへの憧れが=同級生たちとの共通項にはなり得ませんでしたが=今でも私の血の半分はシャンソン歌手だと言い切れます。
Debussyの自筆譜

学生ロック・バンド時代の筆者

Debussyの自筆譜

学生ロック・バンド時代の筆者

お若い皆さんは将来の自分が見えないことに不安な気持ちになることがあるかもしれません。漠然と先人たちの通った道を見据えてみても、それって自分にはもう当てはまらないのではとあきらめたり、今やってることが先々どうなるんだろうと、霧の中をさまよっているような気分になることもあるかもしれません。

けれど何より自分の好きなこと、愛するものをやっていれば、それは必ずや目の前に新しい道を開けさせてくれます。そんな好きなものが見つからないというあなた、楽しいこと心地良いことでいいのです。続けていれば、いつかどこかで「あぁここにつながっていたんだ」と思える出会いが、人生何度でも訪れます。

見逃さないでください。プランBのほうがあなたにとっての天職になるのかもしれません。毎日毎日出会う多くの人や物のほとんどはただ過ぎ去って忘れてしまうかもしれません、けれど、きっとその中でひとつ、たったひとつでもいいのです。あなたにとって生涯の宝物となる誰か、何かがあなたとの出会いを待っていてくれています。
Debussyの自筆譜

武満徹さんと、飛騨古川音楽大賞授賞式にて

Debussyの自筆譜

学武満徹さんと、飛騨古川音楽大賞授賞式にて

留学に向かう以降の話は後編にさせていただきますが、今回はそんな「出会い」を大切にしてくれている私の生徒さんとの動画をご紹介させてください。彼女久保智美さん(Instagram @tomomistraat)はスペイン人と結婚し、現在バルセロナをベースに活躍しています。このご時世で一緒に演奏することはなかなか実現しませんが、オンラインで「交換書簡」を音楽でやろうという企画を一緒にやらせてもらっています。どちらか音楽による手紙を出すと、それに音楽で返事をする。時折は二重奏になったり、もっと多重になることもOK。そして動画編集もそれぞれがやるので、同じ素材で二種類ができあがるという自由なやり取りです。そのPart3 Tomomi versionです。ではまた次回。

Part3 Tomomi version

原田 節(ハラダ タカシ) オンド・マルトノ奏者、作曲家 profile

オンド・マルトノ奏者 原田 節

Photo by Andy Lee

三歳よりヴァイオリン、七歳よりピアノを始めるが、強烈な自己表現能力に優れたオンド・マルトノとの出会いは衝撃的で、慶應義塾大学経済学部を卒業後渡仏を決意。パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)オンド・マルトノ科を首席で卒業、オンド・マルトノ演奏家としての積極的な演奏活動を開始した。特に20世紀を代表するフランスの作曲家故オリヴィエ・メシアン作曲[トゥランガリーラ交響曲]のソリストとしての演奏会は、カーネギーホール、ベルリンフィルハーモニーホール、シャンゼリゼ劇場、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座といった主要な劇場で20ヶ国 330公演を超えた。また 同曲をオランダ王立コンセルトヘボー管と録音したCDはフランス・ディアパゾンドール賞を受賞するなど、世界的な評価を得ている。

同時に、学生時代よりロックバンドでキーボードやボーカルを担当し、現在もオンド・マルトノをロックに持ち込むなど活発なライブ活動を続けている。 作曲家としての代表作には、オンド・マルトノ協奏曲[薄暮、光たゆたふ時]、劇場用長編アニメ[パルムの樹]、組曲[オリーブの雨]などがある。テレビCMでは現在「揖保乃糸」「ダイワハウス」が放送中。グローバル音楽奨励賞、出光音楽賞、飛騨古川音楽大賞奨励賞、横浜文化奨励賞、ブリッケンリッジ映画祭で最優秀音楽賞、ミュージック・ペンクラブ賞など受賞。     

原田節さんに聞いちゃおう!

オンド・マルトノ奏者の原田節さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>

次回の掲載は2022年12月5日ごろを予定しております!

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