
【連載61】ピアノ弾きの日常「カレー屋にて」
福神漬けが好きじゃない。
着色してないのはまだいい。
赤くて甘い、あいつだ。
カレーに福神漬け。
誰が決めたの?
好きな人がいるのは知ってる。
わかるけど、僕の中では余計だ。
勝手にお皿の端に乗っけないでー。
僕はらっきょ派なのよ。
そもそも、福神漬けの生き様からして気に入らない。
まず。
なに?その色!
食べ物の中で一番派手ってなに?
君、サポートだよね?
バックバンドだよね?
だったら基本は黒でしょ! クロ!
カレーより目立ってどうすんの?
しかも、名前だけどさ。
神?
ふーん。
付け合わせの分際で神を名乗るんだ。
しかも福の神?
オレに福は来とらんぞよ!
ま、名前は親がつけたんだろうから、そこは仕方ないとしても、だ。
それでナニ?
カレーとしか仕事しないのな。
そりゃカレーは素晴らしいアーティストだよ。
でもね、他にも素晴らしい人はたくさんいるわけじゃない?
オレは、永ちゃんとしかやんないぜ、みたいな?
他のカスなんかとやれるか!
みたいな?
違うね。
他の人とは出来ないんだ。
きっとスリーコードしか弾けないんだ。
サポーターとしてね、キミ、
勉強不足!
えっ?ちゃんと弾けるって?
でもさ、赤い福神漬けで、寿司のサポートできる?
食えないっしょ?
たこ焼きとかもダメっしょ?
牛丼も案外ないよねー。
ショウガを見てよ!
何でも来い、のあの感じ。
寿司Good!
牛丼Good!
たこ焼きGood!
スープや鍋では、ステージに姿さえ見せない。
でも間違いなくフロントアーティストのクオリティーを上げる。
ジュースまで、美味くするんだぜ。
わかる?
これが一流のサポートだよっ!
この際だから言っちゃう。
カレー屋でエラそうに並んでるか知んないけど。
キミら無料でしょ?
無料ってナニ?
それは仕事とは言わない。
だから甘えが出るんだよ。
甘えが味に出ちゃってるし。
知ってる?
ココ壱番屋なら、らっきょは30円だよ、30円!
格が違う、格が。
でもね。
彼らは、高いギャラを鼻にかけるわけでもなく。
名脇役として、色なんか無くても、ちゃーんと仕事するんだよ。
目立たず、でもこれがなきゃダメ。
これぞサポートっ!
そもそもカッコつけない名前の響きがいい。
らっきょ。
ちょっと、ププッ、、てなる。
でも、それであんないい仕事するんだよ。
神を名乗ることが恥ずかしくならない?
あいつはスゴイよ。
とにかくさ。
サポートはフロント立ててなんぼ。
自分立てちゃダメでしょ?
わかってない。
わかってないなぁ。
俺も実はサポートなんだ。
キミと同じだ。
だから、キミのためにあえて厳しく言う。
自分を見失なうんじゃァない!
本物のサポートを目指せよ!
、、、、あれ?
おい、、、
泣くなよ、、、
泣かなくてもいいんだよ。
(肩に手をやる)
わかりゃいいんだよ。
わかった、、、
わかったよ!
食べてやるから。
頑張れ。
な。
そんなわけで、しかたなく今日も食べてあげました。
初めまして。
元音大生、ピアノ弾きの飯田俊明です。
マジですか?
こんなふざけた文章を?
と恐縮しつつ、ちょっとしたご縁で、ありがたくも連載させていただけることに。
Facebookにて、ピアノ弾きとしての日常を書いてました。
その中からいくつかを選んでお届けします。
音大生のみなさんへエール?
いやあ、、自分だけでヒーヒー言ってるのに?
人にエールなんて送れるのかしらん、
と思いつつ、、、
音楽で生活する、ということがどんな景色なのか、その一端をご覧いただくことで、自分の進む道を考えるきっかけになったり、場合によっては、もしかしたらエールにもなる、なんてことも?
あわよくばそんな風になればいいな、と思っています。
音楽家には二種類あるように思います。
自己主張がはっきりあり、フロントに立つ人。
自己主張のある人をサポートする立場の人。
ぼくはほぼ後者。
コンサートやライブではほとんどフロントに立ちません。
演奏で暮らしている人の多くは、実はこういうサポートの方が多いと思います。
これは職人仕事に近い。
自分の主張より、アーティストの思いを最大限活かすことに力を注ぐ。
音楽家になりたい、っていうけどさ、君は何を表現したいわけ?
なんて年上のエラい人に言われちゃって、答えに窮した人はいませんか?
音楽したい人の中には、実はサポートの方が合ってる、なんて方も結構いらっしゃるのではないかと思います。
僕もその一人です。
年90回程度のライブがあっても、自己プロデュースのライブなんて年に一回あればいい、と思っているタイプです。
それぞれにそれぞれの立ち位置。音楽をやる、といっても実は様々な形があって良いのかな、と思う今日この頃。
ではではまた。
飯田 俊明(いいだ としあき) ピアノ・作編曲 profile
池田直樹など多くのオペラ歌手、岡本知高や、田代万里生、中島啓江、平原綾香、柿澤勇人など幅広いアーティストをサポート。六本木ヒルズ時報、愛知万博、CD、TV、ゲーム、安藤美姫アイスショーなどに作品提供。
最近ではNHK「沁みる夜汽車」「生きて再び」音楽、ホリプロミュージカル60周年記念CD、伍代夏子ドラマCDなど。
武蔵野音楽大学大学院修了。PTNAコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。
飯田俊明さんに聞いちゃおう!
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次回の掲載は2023年2月5日ごろを予定しております!