音大生にエール! 連載62 ピアノ弾きの日常「奇跡のコンサート」|音大生就活ナビ

音大生にエール!

【連載62】ピアノ弾きの日常「奇跡のコンサート」

コンサートを長くやってると、いろんなことが起こる。

その日は地方へ。
山中にある素晴らしいホール。
そこでリサイタルさせていただいた時の不思議な出来事。

ツアー会社の企画による日帰りバスツアー。
100名足らずの団体ツアーで、ニッコウキスゲなど美しい景色を観光しながら、ホールに到着。
隣接している森の素敵なホテルで遅めのランチを食べた後、上質なホールでよく知らないクラシックピアニスト(つまりボク)の生演奏を聴いて、東京へもどる、みたいな日程のツアーで弾かせていただくことになってた。

前の日にホテル入り。
朝から準備して、バスのツアー客をお待ちしてた。

午後2時には到着予定のバス。

なのに待てども待てども、、、
来ない。
おっかしーなー。

そこへスタッフから連絡が!
「バスがかつてないほどの渋滞に巻き込まれ、大幅に遅れてます!」
あらら、こりゃ大変!

ただでさえ、午後2時の遅いランチ予定。
なのに、その時間には着けず!
かといってそんな大人数を食べさせられる、きちっとしたレストランをコース途中で急に手配できるわけもなく。
先も急がないと、日帰りできなかったら大変!

お客様たちは、お菓子などを食べながら飢えをしのいでいるらしい。
うわー。
まるで遭難、、、、。

待って待って待ちくたびれて、、、、
バス、到着しました。
時間は、、、午後5時!

お客さん、疲労限界。
お腹空きまくり。
ストレス値急上昇、、、、。

しかーし!
さらにふりかかる災難!

隣接ホテルのレストランは、既にディナーの時間帯。
宿泊客が使うため、ツアー客は使用不可!
なぬー!?
じゃ、どこで食べんのよ~?

結局ホールのロビーで、ビュッフェスタイルで食べる事に。
ビュッフェと言えば聞こえはいいけど。
要するに、立って食べろ、つーことですわな。

お客さん、ピキピキ。
険悪な雰囲気、、、、、。
これで聴かせられる演奏がヒドイとなったら、ただじゃすまねーぞ!
ってシチュエーションですよね、これ。

ひぇー!!!
やばい!
いいだくん、史上最大のピンチーーーー!

もし、演奏を気に入ってもらえなかったら?
ビュッフェで使ったフォークが飛んでくるかも、、、

手がかるーく震え始めるこの感じ、、、。
やだ、、
逃げたい、、、、。

ところが、このコンサート、奇跡が起きたのでした。

トーク付きのコンサート。
まず僕は深々と頭を下げる。
「大変お疲れ様でございました。お待ち申し上げておりました。」とねぎらいの一言から。

そして、緊張の1曲目。
ドビュッシーの映像第2集「葉ずえを渡る鐘の音」

森の木々の情景などを幻想的に表現した曲ですね。

実はこのホール、森に囲まれてる。
壁面がほとんどガラス張り。

夏の良い季節だったので、スタッフさんがちょっと窓を開けてくれてた。
でもって、この曲のタイミングで。
森のざわめきが、そよ風に揺れてサワサワー。
鳥の声がチュンチュンって。

ホールに響く気持ちの良い音。

わー、、、、
雰囲気ピッタリ!
効果抜群!
僕も弾いてておおー!ってなる。

しかし、偶然はこれだけでは終わらなくて。

プログラムは進み、同じくドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」

すると、ちょうど外は夕暮れ。
夕日がホールに射し込む。
でこの曲に合わせるように、「カナカナカナ、、、、」
ヒグラシだ、、、。
ぴったりじゃん! 
僕、自分の演奏に感動してた(こらこら)。

しかし、偶然はこれだけでは終わらなくて。
プログラムは進んで、ショパンの「雨だれ」

まあまあ予想出来る人、いると思いますが。
そう!
まさかまさかの。
シトシト雨が降り出した!

マジかよ神様!
できすぎだぜ。

山の天気は変わりやすい、っていうけどさ。
さっきまで夕暮れの光が入ってたのに。
すっかり闇に包まれた森に響く静かな雨音。

ピッタリすぎる、、、、。

しかーし!
偶然はこれだけでは終わらなくて!

まだあるの?
ってぐらい、偶然のオンパレード。

プログラム最後は、ムソルグスキー展覧会の絵「バーバーヤガーの小屋」。

魔女を表現した恐ろしい音楽。
ここでなんと。
そーです。
カミナリが!
ピカ!ゴロゴローって。

えー!マジで?
ムードばっちり。

山の天気は変わりやすいって、、、
いやいやいや、ありえん、、、
奇跡だ、、、、。

てなわけで、コンサートが終わりました。
お客さん大喝采!

ステージ降りてお客様にご挨拶。
「ちょっとあんたー、なんか良かったわよー!」
と握手したまま、腕を上下にブンブン振りまわすおばさん。

別のおじさんも。
「いやあ、カミナリピカピカってなってさー、すげー迫力だったよー!素晴らしい!」
ハハ、、、
僕の力じゃないんですけどね、、、、
と心の中でつぶやきながら。

ともあれ、良かったー、楽しんでもらえて。
ほっと一息。
命拾いとはこのこと。

帰りは、みなさんのバスで一緒に帰る。
お菓子なんかももらって、温かくお仲間に入れていただきました。

お客さんと一緒に帰る企画だったのね。
これで演奏会がダメだったら?
それは、まさに地獄行きのバス!
そう思うとゾッとするけど、やれやれ良かった~。

深夜無事東京に入った。
新宿の夜景をぼんやり眺める。
夢から醒めたような不思議な気分、、、。
今日の出来事はなんだったんだろう、、、。
できすぎですが、本当の話。
忘れられないコンサートに。
森の神様、ありがとう!

バスツアー

このコンサート自体は、随分前の話ですが、今でも忘れられない思い出です。

コンサートをやっていると毎日がイベントで、いろいろな事件が起こります。
もちろん、大失敗の事件だって何度もあります。
昔、自分たちのせいでトラブルに巻き込まれコンサートに遅れ、お客さんに帰ってもらった、なんてヒドい経験もあります。
若かったなあ。

綱渡りの人生ですが、でも毎日同じよりずっと楽しい。
はい。
演奏家というお仕事、オススメです。
毎日飽きません。
目指している方は、ぜひ頑張ってください。

飯田 俊明(いいだ としあき) ピアノ・作編曲 profile

ピアノ・作編曲s 飯田 俊明 池田直樹など多くのオペラ歌手、岡本知高や、田代万里生、中島啓江、平原綾香、柿澤勇人など幅広いアーティストをサポート。六本木ヒルズ時報、愛知万博、CD、TV、ゲーム、安藤美姫アイスショーなどに作品提供。
最近ではNHK「沁みる夜汽車」「生きて再び」音楽、ホリプロミュージカル60周年記念CD、伍代夏子ドラマCDなど。
武蔵野音楽大学大学院修了。PTNAコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。

飯田俊明さんに聞いちゃおう!

ピアノ、キーボード、ピアニカ他、作編曲の飯田俊明さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>

次回の掲載は2023年2月20日ごろを予定しております!

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