ピアノ弾きの日常
「サウジアラビア演奏旅行レポ」
今回は、以前サウジアラビアに行った時の事をご紹介します。
入国がめっちゃ厳しいと言われる国、サウジ。
観光ビザはおりないぞ、サウジ。
メッカがあり、宗教的に最も厳格と言われるサウジ。
お酒も飲んじゃだめらしいぞ、サウジ。
公開処刑もあるらしいぞ、サウジ。
入る前は色々聞かされてた。
ネットにも、なかなか恐ろしい情報が並ぶ。
入国の審査がヤバいんだって!
ヌードはもちろん、水着の載ってる雑誌とかパソコンとか持ってると、別室に連れてかれちゃうんだって!?
変な粉とか持ってっちゃった日には、連行されかねない雰囲気?
漢方薬とか荷物に入れちゃだめかな、、、、風邪とかひくこととかあるわけだけど、、、
しかもさー、英語で説明しなきゃ、ってことだよねー!?
「あのね、これは葛根湯。
え?
カッコントーだよ!
ドゥーユーノーカッコントー?
知らないの?
ディスイズ、ア、カゼグスリ!
えーと風邪薬って英語でなんて言うんだっけ、、
イット イズ チャイナウインドメディスン??、、、、
わー!
怖い顔しないで~!
危ないものじゃないってば!」
(妄想10秒、、、、)
ムリだムリムリ、、、
なので念のため、パソコンも漢方薬も持ってくのやめたけれど。
いざ着いたら。
入国審査の濃い系イケメン兄ちゃん、パスポートを見ると、僕になーんも喋らせず、
「通っていいよ。」
あれ?
おいコラ!
必要そうな単語、必死で暗記してきたのに!
高い音声翻訳アプリまで仕込んで身構えてたのに!
なんか喋らせろ!
とは全く思わず。
やれやれ助かった。
荷物検査さえ無し。
なーんだ、普通じゃーん。
でもこれは日本国パスポートのおかげかもしんないナー。
入国審査には、バングラデシュやインドあたりからの出稼ぎらしき人がいっぱい。
彼らの審査は厳しそうだ。
審査は男女別。
同行のソプラノ歌手は、ひとりだけ女性の列へ。
女性はほとんど出稼ぎらしく、列を守らないので困ったらしい。
しかしソプラノの彼女は、お人形さんのような見かけとは裏腹に、とてもタフな精神力を持っている。
こういう時も一人になったことにおびえるわけでも無く、イギリス生活で鍛えた流暢な英語で切り抜けていた。
オレも一応男だから、怖い国に行くし守んなきゃ、などと思っていたが、とーんでもない。
英語がダメな僕を助けてくれたのは、結局いつも彼女の方だった。
トホホ、ダメ男。
さて。
空港を抜け、無事リヤドの街へ。
ヤッホー!
車でホテルに向かう。
女性の権利が著しく低いとされるこの国。
女性は運転さえできないらしい。(注:2018年に解禁された)
送り迎えの運転スタッフも当然男性。
が、こうしたことに気がつかなければ、市内はいたって普通だ。
ものものしい警備などが目立つわけでもなく、のんびりした空気が漂う。
ただし、車の運転は荒い。
そもそも歩く事をしない国民ということもあり、道路脇を歩くのは本当に危険な事らしい。
夜だというのに、道路脇の砂漠の真ん中には、黒い服を来たグループがちらほら。
ピクニック、のようなものらしい。
娯楽がないのかな。
聞くと、そう、まさにここは娯楽の無い国に見える。
なんといっても、音楽禁止!
もちろん音楽ホールなど無し。お店のBGMなども一切無し。
わー、そうかあ、、、、
やっぱりこんな道楽みたいなこと仕事にしちゃだめかあああ、、、
日本でも、なんとなくそうかなあ、、とは思ってたんだけどさ。
やっぱりね。
この国に、ピアノなんてあるのかなあ、、、。
ピアノがないとボク、何の役にも立たないただのおじさんなんですけど、、、、。
などと思いながら、車外に目をやってると。
夜の砂漠の真ん中に、ライトアップされたどでかい宮殿が!
と思ったら、それはリッツカールトンホテル、だそうで。
リヤドで一番のホテルらしく。
スゲ。
土地も広大、門もどでかい。
門からホテルまでまっすぐに広い道がのびてる。
長すぎて、そのスペースでサッカーできそう!
歩いてくる人いないんだろね。車がなきゃ、入る気にもならない。
この奥の真ん中に、王様が座ってるのね、って感じ。
僕らはそこを通り過ぎ、隣のホテルへ。
ここも素敵すぎるホテル。
到着すると、フルーツがわんさか届く。
うーむ、おいちい。
食いきれない。
スタッフは皆とても親切だ。
サウジアラビア人、温和で良い人たちー。
ホテル綺麗〜!。
ホスピタリティGood!。
うーむ、普通の国です、サウジアラビア。
てか、いい国だ!
この調子で、コンサートも成功させるぜ!
まずはショッピングセンターへ。
トイレに入っていると、急に「アッラ~アクバル」の声。
日に5回、お祈りの時間だ。
なんだかトイレをしているのが悪くて、あわてて切り上げる。
ところでこれさ。
とても素敵な歌に聴こえる。
音楽禁止っていうけど、、
これ思いっきり音楽だよね、、、。
そんなこんなで、いよいよコンサート会場へ。
ありましたよ、ピアノ!
しかも白!
我が友よ、待っててくれたのねん。
えっ?
わざわざレンタル?
ウウッ、、ありがてぇ、、、
でもって、そのメーカーがスゴい。
韓国のHYUNDAIだよ!
ヒュンダイ製!
車だけじゃなかったのか!
おお!音もなかなか。
おそらく初のオペラコンサートだとか。
よし、がんばるぞ!
さてさて、歌手はお二人とも実に素晴らしい。
お客様大喜び。
コンサートも順調に進み、、
と思いきや、、
ん?
ペダル?
あれ?
なんかペダルだんだん効かなくなってるよーな、
踏んでもちょっとしか響かない、、、
クソッ!フンム!(訳者注: 強く踏む様子)
アンコールでは、ついに全く効かなくなり、、
マジかっ!
コラーヒュンダイ!
ブレーキだったら死ぬとこよー!
ピアノは、ペダル効かなくても死なないが、
俺の音楽生命が死ぬ。
大事なコンサートがぁ!
ま、しかし修羅場の数だけは自慢できる僕。
「野外演奏、風が強くて譜面が全部飛んでっちゃったよ事件」や、
「ソロパート、ピアノから持ち替えでピアニカ吹こうとしたらそこになかった事件」とか、
「動物バンドやらされて、着ぐるみ着せられたら全然音聴こえないぞ事件」
はたまた
「コンサートにバンドごと遅刻して、お客さんに帰ってもらった事件」
に比べればたいしたことはない。
フレーズ変えてなんとか悟られず(多分)終了。
フーッ、、、
アッラーの神様、やることが面白すぎるよん♡
さてさて、ここに書ききれない数々の珍事を経て。
帰路の飛行機で考えた。
この国のイメージは怖い方に寄りすぎてる。
僕の出会った方々は皆にこやかでのんびり、街も素敵だ。
一方、良いところばかり見たのかな、とも。
公開処刑も現実。
でも、、、
ダブルスタンダード、という言葉を思い出した。
音楽ホールはないが、テレビ番組は音楽で溢れ。
酒は禁止だがどうも無いわけでも無く。
女性は黒服なのに、オシャレブティックはたくさん。
本当はみんな文化が大好きなのだ。
公とプライベートが違ってる。
もっと言えば国と国民は違う、ということかも。
国を理解するって簡単じゃない。
でも、日本では突然始まると奇異にも映るお祈りが、この街で皆が一斉に行なう様子は、ごく自然ですごくステキに見えた。
訪れないとわかんない。
来て良かったとしみじみ思えた旅でした。
歌い手のお二人はじめ、皆様に感謝!

行ったのは、もう10年も前のこと。
現在も厳しいのは確かですが、皇太子が解放路線を打ち出し、酒類提供のビーチリゾートの計画まであるとか。
サウジアラビアも変わりつつあるようです。
演奏家の幸せは、何と言ってもツアーです。
伴奏者としての仕事が多い僕は、様々なアーティストさんと一緒に、実にいろいろなところに連れて行っていただきました。
旅先ならではの美味しいものを食べ、歓迎をいただいて、ついでに観光もして帰る。
身体は大変ですが、この仕事をしていてよかったな、と思えることの一つです。