
【連載66】ピアノ弾きの日常「海の日」
ふと思い出した。
若い頃の忘れられない失敗談。
30年前になる。
もう時効だから書いてもいいよね。
あるバンドで、○HKラジオに出演することに。
全国放送。
しかも生放送、生演奏。
ペーペーの僕ら、緊張の収録現場。
抜擢したプロデューサーもハラハラしながら見てたに違いない。
その日は「海の日」。
祝日に制定されたばかりで、番組は「海の日の祝日制定」にちなんだスペシャル番組だった。
我がバンドのヴォーカルM子は、ルックスも良いし、バンドの曲全てを作曲する才媛だが、ちょっとすっとんきょうなところのある、天才肌、天然ちゃん。
祝日制定にちなんだオリジナル曲まで書き、そのお披露目も兼ね、万全の体制で臨んだ、、、
はずだった。
ヴォーカルM子、司会のアナウンサーさん、そしてタレントさん。
3人でトークをしてからすぐ生演奏、という段取り。
僕らバンドメンバーは、トーク席の横で楽器持って緊張のスタンバイ。
で、その娘がやっちまった、、、、
多少の天然ボケもありながら、なごやかに進んだトーク、最後のまとめに入ろうと、司会が言う。
司会「えー、そんなわけで、今日は海の日、祝日ということで、、、、」
すると娘が、突然叫ぶ。
「え?!今日、祝日なんですか?!」。
すっとんきょうな声。
そう、、、
彼女は知らなかったのだ。
海の日は、「耳の日」や「ふみの日」と同じ、ただの記念日だと思って、この場に来てしまったのだ!
いや、無理もないよね。
うんうん。
そーだよね。
なんで海の日が祝日なの?
天皇さんが誕生したわけでもなく、建国記念でもないのに、ただ海だっ!つーだけで、祝日になるなんてねえ。
わかるわかる。
わかるよー。
でもね、、、、、
それを生放送で言うなーー!!!!!
司会者、場をどうやってとりなしたら良いか一瞬迷って咳払い中。
娘はたたみかける。
「え?え? 海の日って、ただ時の記念日、とか、防災の日、とかそーゆーんじゃなくて、日本全国がお休みになる、あの祝日ですか?!!!!」
そーだよ!!!
だからこの番組があるんだよ!
だから呼ばれたんだよ!
だから、テメーが曲書いたんだよ!
ガラスに向こうにある調整室では、プロデューサー以下スタッフが、ひっくり返ってる!
そこで、本人もやらかしたことに気づいたらしい。
みるみる赤面していく。
司会者、もうどうしようもなくて、アハハと笑って、
「楽しいお話でした。それでは弾いていただきましょう。
海の日祝日制定にちなんで、今日のために書き下ろしていただいた新曲です。どうぞ!」
そのあと緊張の極に達した演奏が「サイコー」だったのはいうまでもない。
おれたちだって、もうガタガタだったけど、彼女はなんといってもヴォーカル。
蚊の鳴くような、あるいはカエルを思い起こさせようなその声は、全国に響き渡ったのでした。
ケロッ、ケロッ。
人間って失敗します。
ぼくも同じです。
演奏でも数知れず。
恥ずかしいったらありゃしない。
でも、だからこそ次は絶対失敗しないぞ、って心に誓うのです。
彼女も、その後はきっと下調べをきちっとにする人になったことでしょう。
つまり失敗は多いほど、成長する。
だから先人たちはよく言います。
「失敗は成功の元。」
でもねえ。
その失敗で仕事を失うことだってあります。
せっかく失敗を買ったのに、投資になってなくて、ただ損しただけかも。
僕はこう思います。
「若い頃の失敗は成功の元」
若いうちは巻き返しがきく。
怒鳴られるけれど、許してもらえるかもしれないし、またチャンスがある。
年取ってからの失敗は、巻き返しのチャンスが限られます。
それに、怒鳴られない(歳上だから)けれど、そっと離れられてゆく。
歳をとるってそういうことです。
失敗するなら若いうちに。
失敗だらけな僕からのお知らせでした。
飯田 俊明(いいだ としあき) ピアノ・作編曲 profile
池田直樹など多くのオペラ歌手、岡本知高や、田代万里生、中島啓江、平原綾香、柿澤勇人など幅広いアーティストをサポート。六本木ヒルズ時報、愛知万博、CD、TV、ゲーム、安藤美姫アイスショーなどに作品提供。
最近ではNHK「沁みる夜汽車」「生きて再び」音楽、ホリプロミュージカル60周年記念CD、伍代夏子ドラマCDなど。
武蔵野音楽大学大学院修了。PTNAコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。
飯田俊明さんに聞いちゃおう!
ピアノ、キーボード、ピアニカ他、作編曲の飯田俊明さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>
次回の掲載は2023年4月20日ごろを予定しております!