「音大卒」は武器になる④
―田中さん―
この度『音大出てどうするの?―マンガ『「音大卒」は武器になる』』(ヤマハYMEH刊)が発刊されることになりました。漫画作者の田中マコトさんは、「音大卒」を武器に、漫画家として活躍されている異色の存在。今回は、その田中さんにフォーカスしたいと思います。
田中さんは、ある劇団のトップミュージカル女優になりたいとの強い思いから、音大声楽科に進学しました。しかし大学3年生の公開オーディションの際、ご自身が生来非常に緊張するタイプで、どんなに頑張っても女優にはなれないと絶望します。女優になることしか考えていませんでしたから、完全に迷い道に嵌ってしまいました。
憂鬱な日々を送る中、偶然、いや奇跡といっていい出来事が起こります。ある著名な女性漫画家が、クラシック音楽をテーマにした作品を描くため、音大にやってきて、田中さんはその取材を受けることになったのです。漫画家さんの生き生きとした姿、ご馳走してくれる切符の良さなどに接するうち、女性として格好いいと感じ、「漫画家は女性が一生やれる仕事」ではないかと思うようになりました。
とはいえ、その道は決して平坦なものではなかったと言います。音大卒業後32歳までの10年近く、漫画作品を出版社に持ち込んでも相手にされませんでした。持ち込んでは断られる日々。しかし、ダメ出しされても次を、また次を、と持ち込み続けました。
そんな努力が功を奏したのか、32歳の時、ようやくある出版社が担当をつけてくれました。ただその理由は「作品がいい」ではなく、「未知数だから」。ダメならすぐお払い箱です。しかも「デビューには3年かかる」とも。それを1年でクリアし、今では仕事の依頼もひっきりなし。新刊では、学生時代取材を受けた母校に、逆に取材する立場になったことに感慨も一入です。きっと田中さんご自身の学生時代も多く投影されている新刊、是非お手に取っていただければと思います。