『音大崩壊』を書いてみて③
音大や日本に明るい未来はないのか? 本来なら「そんなことはありません!」と強く否定したいところですが、残念ながら今のままでは非常に暗い気がしています。
特に日本が、少子高齢化に有効な手立てを打てなかったことは大きいと思います。日本の人口は、2050年には今より2千万人少ない1億人、生産人口に至ってはそのほぼ全量にあたる2200万人減の5300万人になると予想されています(国立社会保障・人口問題研究所推計より)。将来の人口推計は非常に精度が高く、「既に起こった未来」といわれるほどですから、これがほぼ確定しているマイナスインパクトは、かなり大きいと言わざるをえません。
これほどの人口減ですから、総所得(GDP)も伸びません。ある調査機関によれば、2050年には現在のアメリカ、中国に次ぐ第3位から、インド、インドネシアに大きく水を開けられた5~10位くらいの「第2集団」の一国に過ぎなくなります。これらを前提とするならば、少なくとも現状維持には「経済的優位性を失う代わりの何か」が絶対必要です。私は、それが日本を「文化国家」に再構築することだと思いました。
変わる世界の勢力図(名目GDP)
単位:百万米ドル
1990 | 1995 | 2000 | 2005 | 2010 | 2020 | 2050 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
日本 | 3,133 | 5,449 | 4,887 | 4,755 | 5,700 | 5,049 | 6,779 |
米国 | 5,963 | 7,639 | 10,252 | 13,037 | 14,992 | 20,933 | 34,102 |
イギリス | 1,191 | 1,336 | 1,651 | 2,528 | 2,455 | 2,711 | 5,369 |
ドイツ | 1,598 | 2,588 | 1,948 | 2,848 | 3,402 | 3,803 | 6,138 |
フランス | 1,272 | 1,602 | 1,366 | 2,198 | 2,647 | 2,599 | 4,705 |
イタリア | 1,171 | 1,171 | 1,145 | 1,854 | 2,129 | 1,885 | 3,115 |
中国 | 399 | 737 | 1,215 | 2,309 | 6,066 | 14,723 | 49,853 |
インド | 327 | 367 | 476 | 834 | 1,708 | 2,709 | 28,021 |
インドネシア | 138 | 244 | 179 | 311 | 755 | 1,060 | 7,275 |
ブラジル | 455 | 787 | 655 | 2,207 | 1,800 | 1,434 | 6,532 |
メキシコ | 290 | 360 | 708 | 877 | 1,058 | 1,760 | 5,563 |
ロシア | - | 336 | 278 | 818 | 1,633 | 1,474 | 5,127 |
出典;IME:Global Note, Pwc「2050年の世界」(2017)
ヒントになったのがシンガポール。同国は経済発展を重視する中で、「文化の砂漠」になる懸念にいち早く気づき、2000年頃から文化芸術による産業立国化を目指し始めました。いわば国を挙げて文化芸術を通じた国家作りに取り組み始めたのです。教育、医療にも力を入れ、これまでの経済一辺倒から大きく政策を変更させ、その成果を着々とあげています。日本も大いに参考にすべきではないでしょうか。そして音大も、そのような国家作りにどう貢献できるか、そうしたダイナミックな改革への取り組みが、唯一といっていい活路ではないかと思うのです。
少し大袈裟かもしれませんが、音大と国家日本のコラボー――これこそ、日本に灯る一筋の光明ではないかー――『音大崩壊』にはそんな思いを詰め込みました。ご興味のある方はご一読いただければ幸いです。