音大生応援団長の進路指導
連載38

『音大崩壊』を書いてみて③

音大や日本に明るい未来はないのか? 本来なら「そんなことはありません!」と強く否定したいところですが、残念ながら今のままでは非常に暗い気がしています。

特に日本が、少子高齢化に有効な手立てを打てなかったことは大きいと思います。日本の人口は、2050年には今より2千万人少ない1億人、生産人口に至ってはそのほぼ全量にあたる2200万人減の5300万人になると予想されています(国立社会保障・人口問題研究所推計より)。将来の人口推計は非常に精度が高く、「既に起こった未来」といわれるほどですから、これがほぼ確定しているマイナスインパクトは、かなり大きいと言わざるをえません。

これほどの人口減ですから、総所得(GDP)も伸びません。ある調査機関によれば、2050年には現在のアメリカ、中国に次ぐ第3位から、インド、インドネシアに大きく水を開けられた5~10位くらいの「第2集団」の一国に過ぎなくなります。これらを前提とするならば、少なくとも現状維持には「経済的優位性を失う代わりの何か」が絶対必要です。私は、それが日本を「文化国家」に再構築することだと思いました。

変わる世界の勢力図(名目GDP)

単位:百万米ドル

1990 1995 2000 2005 2010 2020 2050
日本 3,133 5,449 4,887 4,755 5,700 5,049 6,779
米国 5,963 7,639 10,252 13,037 14,992 20,933 34,102
イギリス 1,191 1,336 1,651 2,528 2,455 2,711 5,369
ドイツ 1,598 2,588 1,948 2,848 3,402 3,803 6,138
フランス 1,272 1,602 1,366 2,198 2,647 2,599 4,705
イタリア 1,171 1,171 1,145 1,854 2,129 1,885 3,115
中国 399 737 1,215 2,309 6,066 14,723 49,853
インド 327 367 476 834 1,708 2,709 28,021
インドネシア 138 244 179 311 755 1,060 7,275
ブラジル 455 787 655 2,207 1,800 1,434 6,532
メキシコ 290 360 708 877 1,058 1,760 5,563
ロシア - 336 278 818 1,633 1,474 5,127

出典;IME:Global Note, Pwc「2050年の世界」(2017)

ヒントになったのがシンガポール。同国は経済発展を重視する中で、「文化の砂漠」になる懸念にいち早く気づき、2000年頃から文化芸術による産業立国化を目指し始めました。いわば国を挙げて文化芸術を通じた国家作りに取り組み始めたのです。教育、医療にも力を入れ、これまでの経済一辺倒から大きく政策を変更させ、その成果を着々とあげています。日本も大いに参考にすべきではないでしょうか。そして音大も、そのような国家作りにどう貢献できるか、そうしたダイナミックな改革への取り組みが、唯一といっていい活路ではないかと思うのです。

少し大袈裟かもしれませんが、音大と国家日本のコラボー――これこそ、日本に灯る一筋の光明ではないかー――『音大崩壊』にはそんな思いを詰め込みました。ご興味のある方はご一読いただければ幸いです。

音大生の応援団長、大内孝夫 profile

音大生の応援団長、大内孝夫 元メガバンク支店長(慶応義塾大学経済学部卒)。
音大に転職し、音大生のすばらしさに感動!『「音大卒」は武器になる』を執筆、ベストセラーに。企業就職のみならず、演奏家、音楽教室などを志すすべての音大生にエールを送る。2020年より名古屋芸術大学教授、全日本ピアノ指導者協会キャリア支援室長。他の著作として『「音大卒」の戦い方』(ヤマハミュージックメディア)、『大学就職課発!! 目からウロコの就活術』『「音楽教室の経営」塾』①、②巻(ともに音楽之友社)、『そうだ!音楽教室に行こう』(音楽之友社)など。

音大生の応援団長、大内孝夫さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>>

次回の掲載は2022年9月10日ごろを予定しております! ぜひお楽しみに!

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