就職活動の留意点④
音大生が就職するということ
前回ご登場の音大卒業生のように、「成績が優秀ではない」との自覚があっても音楽で生きていこうとする音大生は多くいます。というか、それが“一般的”かもしれません。演奏家になれない自覚があっても、(音大まで行って)音楽を諦めたと思われたくない、との気持ちが強く働くのでしょうか。あるいは、先生方の無理解も一因かもしれません。「一般就職すると言った途端、レッスンがガラッと変わってしまった」との声は、多くの学生から聞こえてきますからね。
また演奏部が人選する音楽イベントに参加できなくなる、との心配もあるようです。実際、ある音大が校舎を建て替えた際、それまで独立した小部屋にあったキャリアセンターを、新校舎では演奏部や学務部などと同じ部屋に移したところ、相談に来る学生が半分以下に減ったそうです。
このように、前回の「群集心理の働きにくさ」以外にもさまざまな事情から一般就職しない音大生が多いわけですが、それでも私は、コンクールや演奏での実績が相当上ではない学生には「就職しなくて本当にいいの?」と問いかけたいと思います。
なぜなら、こんなに頑張っているみなさんに不幸になってほしくないからです。5年、10年後に「しまった!」と思ってほしくないからです。残念ながら、世の中は「音楽が好き!」という気持ちだけで生きていけるほど甘くありません。さらに行動遺伝学が教える残酷な見解によれば、音楽的才能は環境要因1割、遺伝的要因9割。努力だけでは如何ともしがたい現実も横たわっています。
音大生が一般就職することは、決して「音楽を諦めた」ことを意味しません。5~10年企業勤務後に音楽教室を開く先生は数多くいますし、企業に勤めながら演奏活動を行っている方も多くいます。進路選択は一生を左右する重大事。本音のところ、「音楽で生きていくのは難しい」と感じたら、“堂々と”一般就職すればいい。それは諦めどころか、明るい未来へのプレリュードとなるはずです。