音大生応援団長の進路指導
連載65

チャンスのネタ(その2)
サウンドパフォーマンス・
プラットフォーム特別公演
安野太郎ゾンビ音楽
『大霊廟Ⅳ―音楽崩壊―』より

そもそも私が音大教授に就任し、「大学で教える立場になる」などということは想像だにしない出来事でした。転職先の音大では、これまでのような部長(支店長)、副部長、課長ではなく、その下の主任。自分の中にあったプライドは大いに傷つきました。ただ、65歳までお給料が下がらず勤められると聞いて魅力を感じ、プライドを捨てて転職に応じたのです。しかし、いざ音大に行ってみると、音大生の学びの姿勢はすばらしく、それを世に伝えたい!との気持ちが芽生え、『「音大卒」は武器になる』の発刊に至りました。それが、音大教授への道につながるとは、本当に思いもよらぬことです。

ゾンビ音楽『大霊廟Ⅳ―音楽崩壊―』より さて、愛知県立芸術大学安野太郎准教授のお話は、さらにその上を行きます。作曲家として少しずつ認められてきたものの、経済的なものに結びつかずに困窮したそうです。作曲家ですから、発表する際は演奏を依頼しなければなりません。その演奏家に支払うおカネがなくて、ロボットによる自動演奏なら演奏家に費用を払う必要がない、とゾンビ音楽の着想を得たそうです。しかも手製の自動演奏装置から紡がれる音楽は、通常のハーモニーから外れた音楽。その根底には、「正確であることは、本当に音楽にとって重要なことなのか?」との普通の音楽家なら思いようがない疑問がありました。それはさらに「そもそも正確な人間などというものは存在するのか?」との安野先生の人間観とも交差して、ゾンビ音楽のモチーフとなっています。安野先生のチャンスのネタは、貧乏のどん底で演奏家におカネが払えなかったことと、普通の音楽家が発しないような疑問を持ったことにあったのです。

そして演奏が認められるたびに、ゾンビ音楽の自動演奏装置はどんどん巨大化していきます。今では「自動演奏装置代が嵩み、これなら演奏家に頼んだ方が安い」とぼやいています。

こんな思わず吹き出してしまいそうなところに、チャンスは潜んでいます。あなたのチャンスも、きっとどこかにひっそり潜んでいるはずです。

ゾンビ音楽『大霊廟Ⅳ―音楽崩壊―』開催

音大生の応援団長、大内孝夫 profile

音大生の応援団長、大内孝夫 元メガバンク支店長(慶応義塾大学経済学部卒)。
音大に転職し、音大生のすばらしさに感動!『「音大卒」は武器になる』を執筆、ベストセラーに。企業就職のみならず、演奏家、音楽教室などを志すすべての音大生にエールを送る。2020年より名古屋芸術大学教授、全日本ピアノ指導者協会キャリア支援室長。他の著作として『「音大卒」の戦い方』(ヤマハミュージックメディア)、『大学就職課発!! 目からウロコの就活術』『「音楽教室の経営」塾』①、②巻(ともに音楽之友社)、『そうだ!音楽教室に行こう』(音楽之友社)など。

音大生の応援団長、大内孝夫さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>>

次回の掲載は2023年10月25日ごろを予定しております! ぜひお楽しみに!

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