チャンスのネタ(その2)
サウンドパフォーマンス・
プラットフォーム特別公演
安野太郎ゾンビ音楽
『大霊廟Ⅳ―音楽崩壊―』より
そもそも私が音大教授に就任し、「大学で教える立場になる」などということは想像だにしない出来事でした。転職先の音大では、これまでのような部長(支店長)、副部長、課長ではなく、その下の主任。自分の中にあったプライドは大いに傷つきました。ただ、65歳までお給料が下がらず勤められると聞いて魅力を感じ、プライドを捨てて転職に応じたのです。しかし、いざ音大に行ってみると、音大生の学びの姿勢はすばらしく、それを世に伝えたい!との気持ちが芽生え、『「音大卒」は武器になる』の発刊に至りました。それが、音大教授への道につながるとは、本当に思いもよらぬことです。
さて、愛知県立芸術大学安野太郎准教授のお話は、さらにその上を行きます。作曲家として少しずつ認められてきたものの、経済的なものに結びつかずに困窮したそうです。作曲家ですから、発表する際は演奏を依頼しなければなりません。その演奏家に支払うおカネがなくて、ロボットによる自動演奏なら演奏家に費用を払う必要がない、とゾンビ音楽の着想を得たそうです。しかも手製の自動演奏装置から紡がれる音楽は、通常のハーモニーから外れた音楽。その根底には、「正確であることは、本当に音楽にとって重要なことなのか?」との普通の音楽家なら思いようがない疑問がありました。それはさらに「そもそも正確な人間などというものは存在するのか?」との安野先生の人間観とも交差して、ゾンビ音楽のモチーフとなっています。安野先生のチャンスのネタは、貧乏のどん底で演奏家におカネが払えなかったことと、普通の音楽家が発しないような疑問を持ったことにあったのです。
そして演奏が認められるたびに、ゾンビ音楽の自動演奏装置はどんどん巨大化していきます。今では「自動演奏装置代が嵩み、これなら演奏家に頼んだ方が安い」とぼやいています。
こんな思わず吹き出してしまいそうなところに、チャンスは潜んでいます。あなたのチャンスも、きっとどこかにひっそり潜んでいるはずです。