チャンスのネタ(その3)
ゾンビ音楽「大霊廟Ⅳ-音楽崩壊―」無事終演しました。実際の舞台制作にかかわって感じたことは、作曲家や演奏家は、ただ作曲したり演奏したりしていればいいものではない、ということの再確認です。今回作曲家の安野先生は、全体の舞台構成や進行を考え、電気工事職人のように自ら自動演奏装置を作り、キックボクシングのスパーリングまで行っていました。まさに既存の音楽と「戦う作曲家」を強く印象付ける演出です。音楽家として生きていこうとすれば、いくつもの引き出しを作る努力や工夫は絶対に必要だと、改めて確信しました。さまざまなスキルや持ち味の組み合わせこそ、チャンスのネタになりうるのです。
ゾンビ音楽最終公演終了後撮影
逆に、どんなに優れたスキル・能力であっても、残念ながらチャンスのネタとはならないケースもあるようです。サッカーJリーグで活躍し、今も現役を続けている三浦知良さんがこんなことを言っています。
JFL(J3の下のアマチュアリーグ)には50m走を5秒台で走る25歳や高校選手権を制した24歳の優勝メンバーなど、走る速さや運動能力では欧州の選手に負けない選手がたくさんいる。「それだけの能力があってなぜJFLにいるのか」との疑問を持ちたくなるが、その正解探しより、「JFLにいる現実」を正しい答えと受け止めるべきだ。(2022年3月11日「サッカー人として」日本経済新聞より要約)
音楽にも全く同じことがいえると思います。どんなに演奏技術が優れていても、なかなか芽が出ないのはなぜなのか?「芽が出ない現実」こそ、その答えです。音楽には心を揺り動かす芸術性と、見て楽しむエンタメ性が同居しています。葉加瀬太郎さん、高嶋ちさ子さんの12人のヴァイオリニスト、Cateenこと角野隼人さんなどは、そのバランスが絶妙な一方、音大生やその卒業生には前者にやや傾きすぎている人が多いように思われます。そのあたりがチャンスのネタを逃す原因になっていないか、一度点検してみてはいかがでしょう。